なかなか変わらない会社を改革するときに効果的なリーダーシップ

私が大事に育ててきたこの会社。創業して約20年になる。そろそろ私は引退を考え始めている。仕事以外にやりたいこともいろいろある。だから次世代のリーダーたちを育て上げ、その人たちが会社を背負って立つようになっていって欲しい。

この2,3年はそう思ってリーダーシップを発揮して会社の改革に取り組んでいる。しかし、なかなか次世代のリーダー、自分が前に出て引っ張ろうとする骨のあるやつは表れない。何かを変えれば、水面下で不満や反対意見が出るばかり。何もせずに様子を見ていると誰も動かない。これでは求める姿にはほど遠い。改革が進む気がしない。まさに糠に釘を打っている感じで困っている。

思えば30歳の頃に大手企業を退職し、自分の夢をかなえるために起業してから20年近くが経った。最初の3年間は人には言えないほどの苦労を重ねた。それでも頑張り続けたおかげで会社は成長軌道に乗り、従業員も30名を超えるまでになってきた。自分は常にこの仕事に情熱を傾けてきた。人脈を活かして営業し、プロジェクトでは陣頭指揮をとり、責任を持ってやってきた。この会社がここまで成長したのは社長である私のリーダーシップのおかげだろう。

でも私はこの会社を自分だけの会社だとは思っていない。従業員とともに創り上げてきた会社だと思いたい。だからこそ福利厚生を充実させてきた。家族ぐるみで参加できるようなイベントを企画し、従業員を大切にしている姿勢を見せ、従業員とはいい関係を築いてきたつもりだ。

でも、なぜ私が目指す会社になるように従業員は自ら進んで動いてくれないのだろうか?
これだけ私がリーダーシップを発揮しているのに、なぜ会社は変わらないのだろうか?

そんなことを考えていると、なんだかバカバカしくもなってくる。こんなに頑張り続け、面倒を見続けてきたにも関わらず、従業員は私の期待に応えてくれない。彼らに対して怒り・哀しさ・寂しさなどを感じてしまう。そんな自分の状態は家族にも影響する。仕事を家に持ち込まないようにしているつもりでもどこかにそれは表れているのだろう。妻や子供が心配そうな顔をしているのを見ることが増えたような気がする。

いっそのこと会社はM&Aでどこかに売却してしまった方が気が楽だろう。
ただ、できれば従業員の中から次世代のリーダーを見つけ出し、育て上げ、会社を継いでもらって自分が育ててきた会社と社風をそのまま残したい。

こんな状況で頭を抱えている会社の社長は、それほど珍しくもないでしょう。

会社を改革するためにはどのようなリーダーシップを発揮すべきか?
そもそもリーダーシップとは何なのか?

この記事では、なかなか変わらない会社を改革するとき、あるいはこれからの複雑で予測不能で、様々な利害が絡む時代に必要なリーダーシップについてお伝えしていきます。

1.リーダーシップとは何か?

冒頭に述べたような状況に直面し、自分のリーダーシップを見直す社長も多くいます。そもそも「リーダーシップとは何か?」。この問いは、自分のリーダーシップ観を見直す際の重要な問いかけです。

これまで「リーダーシップ」と聞いて思い浮かべることは本当に正しいのでしょうか?

  • リーダーシップは、人を引っ張ったり、従わせたりする能力だ。
  • リーダーシップは、高い地位にある人にだけ必要なものだ。
  • リーダーシップは、カリスマ性のようなものであり、持って生まれた能力だ。

こうしたことは、これからの複雑で予測不能で変化の速い時代に必要なリーダーシップとしては適切ではないというのが最近のリーダーシップ専門家の意見です。

これからの時代は、これまで以上に変化に適応できたものが生き残る時代です。こうしたときに必要なリーダーシップは「適応の仕事に向けてメンバーを動かすこと」といえます。

ここでいう適応の仕事とは、「変化に適応するためにしなければならないこと」です。

それは、変化に適応するためにしなければならないことを見極め、そしてそれに向けてメンバーを動かしていくことです。

冒頭のケースでは、「この会社は社長がいるから安泰だ」、「社長に従っていればそれでいい」、「最終的には社長が何とかするだろう」といったような暗黙の声が社内に根強くあるのかもしれません。

この会社は自分たちの会社である。自分たちがこの会社の未来を担うんだ。自分たちがこの会社を変えていくんだ。自分たちで何が必要か考え、行動していくんだ。

従業員がこうした意識になるようにしていくのが、この状況下で必要なリーダーシップです。
 
 

2.リーダーシップを発揮すべきリーダーは誰か?

最近は「全ての人がリーダーである」(Everyone is a leader. )という考え方がリーダーシップ専門家の中では通説になっています。

すべての人は周りに対して何らかの影響力を持っています。そして「誰もがそれぞれの形でリーダーシップを発揮している」という組織が求められています。

冒頭のケースのように会社全体での改革が必要なときは、社長のように高い地位にいて権力・権限を持っている人がリーダーシップを発揮するだけでは十分ではありません。社長が会社の改革について従業員へ指示命令を出し、そのとおりに従業員が動くだけだとどうなるでしょうか?確かに会社の組織体制や業務の流れ、社内のルールは変わるでしょう。でも従業員の意識や価値観、考え方、行動様式などが変わるのでしょうか?いいえ、結局はこれまでどおり社長に従っただけです。

望ましいのは社長に加え、変化の現場にいる従業員、権力・権限を持たない人も自分の頭で考え、リーダーシップを発揮するようになっていくことです。そうしたリーダーが周りの従業員の意識・価値観・考え方・行動様式なども変えていくこと。これは表面上の変化ではなく本質的な変化の一つです。

こうしたことが実現されれば、会社の改革は成功に向かっていくでしょう。創業社長も安心して次世代のリーダーに会社を継いでいけます。
 
 

3.リーダーは、リーダーシップを発揮して何をするのか?

では、従業員が適応の仕事をするように、リーダーはどのようなリーダーシップを発揮すればよいのでしょうか?

ビジョンを示し、計画を立て、それらに従って従業員が行動するように影響力を及ぼす。こうしたリーダーシップを考えている人も多いでしょう。しかし、想定外のことが増えてきているときに、このやり方は大きなリスクを伴います。取り組みが失敗したときには全て社長の言動が原因となります。そして社長が積み重ねてきた従業員からの信頼を損ね、社長と従業員の関係を浸食していきます。そもそもこのやり方は従業員のリーダーシップを育てることにはなりません。

一方で、従業員が自分たちの課題としてとらえ、自分たちで取り組み、考え、行動するように社長がリーダーシップを発揮したらどうでしょうか。従業員は、この課題への取り組みを自分たちの経験として積み重ね、この経験から学び、成長をしていくでしょう。もしも失敗したとしても社長と従業員の共同責任です。この場合の失敗は、適切な振り返りによって責任追及ではなく次に活かせる経験になります。従業員の創意工夫や努力をたたえ、次に向けて励ませば、社長と従業員との関係を深める機会ともなります。

リーダーは、目の前に起きていることをメンバーが自分たちの問題としてとらえ、その問題に取り組むように影響力を及ぼすことが複雑で変化の速い時代に望ましいリーダーシップの発揮の仕方です。

そのために必要なことをいくつか紹介しましょう。

(1)適応の仕事を見極める。

一つ目は、変化に適応するためにしなければならないことを見極めること。目の前の状況では、問題点や解決策は明確なのか不明確なのか?もしもそれらが明確であれば、それを実行すればいいだけです。ここで述べているようなリーダーシップは必要ありません。

一方で、もし問題点や解決策が不明確な場合は、この状況に関わる人たちが新しい視点を手に入れたり、何かを学んだり、取り組み姿勢を変えたり、意識を変えたりする必要があります。そこではここで述べているリーダーシップを発揮していく必要があります。

何があれば従業員は会社の改革に向けて取り組むのか?
この会社の中で繰り返されるパターンは何か?
いま起きている物事の背景にはどんな潜在的な課題があるのか?
それらはどんな影響を及ぼしているのか?

社長は自分自身にこれらの問いかけをしてみてください。

例えば、人手が足りないのであれば従業員を雇うなり、外部の専門サービスを使うことを許可すればいいはずです。それらは権限を持った人が判断し、行動すればいいことであり、リーダーシップを発揮して行う適応の仕事ではありません。

これが、社内の人間の意識や信念・価値観、考え方、仕事のやり方、あるいは会社の文化・雰囲気などに関わることだと話が変わってきます。組織体系や社内ルールに起因するかもしれません。過去の出来事が影響を及ぼしているかもしれません。あるいは社内で影響力を持つ特定の個人が関係するのかもしれません。解決策も必ずこれが正解というものはありません。

問題点や解決策が不明確な適応の仕事は、局所的に見ていてもなかなか気づきません。全体を眺めたり、これまでと違った視点で眺めたりしてみるとふと気づくものです。

(2)環境を整える。

メンバーが変化に必要な適応の仕事に向き合い、対立や混乱、混沌とした状況にも耐えられる環境にすることです。

何かに変化が起きるとき、そこには様々な立場からの声が出てきます。意見の対立が起きたり、期待や希望のような明るく前向きな感情だけではなく、不安や不満などの目を背けたくなるような感情が表に現れてきたり、責任回避や失敗への恐れも見え隠れするでしょう。

このとき、化学実験で使われるるつぼのように化学変化にも耐えられる器を提供することが、発揮すべきリーダーシップの一つです。

会社であれば、従業員が改革に向けて取り組めるように必要な情報を提供すること、基盤となるコミュニケーション環境を整えること、改革に費やす時間を提供すること、改革以外の仕事量を調整すること、人事考課・評価制度などへの反映をどうするか、意見や立場が激しく対立したときの仲裁・調整役、一人ひとりのメンタル面のサポートなどが考えられます。

従業員が改革への取り組みへと促されるように環境を整えること、これは社長だからこそ発揮できるリーダーシップです。

(3)変化に対する苦痛や抵抗を調整する。

変化には苦痛や抵抗がつきものです。むしろ適度な苦痛や抵抗は歓迎すべきでもあります。混沌とした状態からこそ新しいものが生まれてきます。たいした抵抗が無いのであれば、どうでもいいと思われていたり、もっと思い切った改革ができる余地があったりします。一方、苦痛や抵抗が大きく、致命的なものとなると改革への取り組み自体が大きく鎮座してしまうかもしれません。

会社であれば、組織の分裂や従業員の退職、ハラスメントへの発展や個人の健康被害にまで及んでしまうと元も子もありません。

社長にはリーダーとして、組織内に起こっていることにアンテナを張り、苦痛や抵抗、混乱を適度な範囲に保ち続けるようにサポートしていくことが求められます。

(4)焦点を維持する。

集中すべき問題に取り組めるようにメンバーをリードし、改革から目をそむけるための仕事に向かわせないこともリーダーの仕事です。

物事がうまく進まないとき、別の物事に目を向けたり、失敗の責任追及に終始したり、誰かを非難したり、表面的な解決策で誤魔化そうとしたり、現状維持を主張したりすることがあります。

しかし、うまく進まず苦しくてどうなるかわからない混沌とした中で模索し続けることにより、妥協とは違う新たな創造が成されるものです。

社長としては、苦しく、混沌とした状況下でも従業員をサポートし、改革への姿勢を保ち続けることが必要です。

(5)メンバーの手に仕事を戻す。

経験豊富で、物事を決め、前に進めることに慣れているリーダーであれば、自分だったらこうする、自分がした方がより速く、よりよいものができるだろうという誘惑にかられることがあります。

しかし、いま必要とされているリーダーシップは適応の仕事に向けてメンバーを動かすことというのを思い出してください。

これまでどおりに社長が物事を判断し、細かく指示して進めていたのでは何も変わりません。従業員がこの会社の状況、自分たちの状況を把握し、将来のことを考え、改革に向けて当事者となり、自分事として取り組むように促すことこそ社長が発揮すべきリーダーシップです。もし何か懸念すべき点があるなら、あらかじめ社長がどのように意思決定に関わるかのルールを定めておけばいいでしょう。

(6)権力・権限・立場についていない現場のリーダーシップの声を護る。

改革に向けた取り組みの中では、意外なメンバーが声を出したり、目立たないメンバーが小さな声を出したりすることがあります。これらは新たな視点を提供したり、核心をついた意見だったりして、流れを変える上で役に立つことが多いです。また、他者をリードすることに慣れていないメンバーは、自分の意見に自信が無かったり、失敗を恐れたりして声をあげることや行動を起こすことを躊躇してしまいがちです。

権力・権限・立場についていない現場のリーダーの声を増幅したり、周りに潰されないようにしたりと、それらを護ることは社長のように権力・権限を持ったリーダーが発揮すべきリーダーシップの一つです。
 
 

4.リーダーがリーダーシップを発揮していく上で、気をつけることは何か?

適応の仕事に向けてメンバーを動かすようにリーダーシップを発揮していくためにはいくつか気をつけることがあります。

(1)バルコニーに上がる。

適応の仕事を見極めたり、隠れたパターンに気付いたりするためには今起きていることを体感しなければなりません。その一方で俯瞰して全体を眺めることも必要です。リーダー自身が現場で仕事に追い回されていたり、対立の渦の中にいたりすると物事が見えなくなってきます。リーダーにはダンスフロアで踊りながらもバルコニーで全体を眺めている、ゲームの中と外の両方にいるような感覚がリーダーシップには必要です。

(2)自分自身と自分の役割を区別する。

組織においては、個人と役割は異なる。改革への一連の取り組みの中で、従業員から社長に対して何かの矛先が向くかもしれません。そのとき、その矛先はあなた自身ではなく社長という役割に向けられたものなのです。そうとらえればその出来事を冷静に受け止め、必要な対応を取りやすくなります。
社長としての意図をもって何かしら振る舞わなければならないときも、それは社長という役割としての振る舞いなのです。ぜひ思い切ったリーダーシップを発揮してください。

(3)目的意識を持つ。

リーダーシップを発揮する上で最も重要なのは目的意識でしょう。
誰のために、何のために、いまこの取り組みをするのか。この点についてリーダーとメンバーが同じ答えを共有できると心強くなります。変化を創る取り組みの中では関係者に大きな感情のうねりが起きることがあります。これを乗り越えるためにも目的意識は重要です。
社長は、会社がいまどういった状況か、この先どうなることが推測されるのか、この取り組みがこの会社にとってどんな意味があるのか、このあたりを従業員と丁寧に対話していくことが必要になるでしょう。会社の理念やビジョン、行動指針なども問われます。
そして、社長自身にとっても、これが自分自身の人生にとってどのような意味があるのか、
自分の人生をどう使いたいのか、人生において周囲にどんな影響を周囲に与えていきたいのかもぜひ改めて考えてみてください。
 
 

5.リーダーシップ開発に役立つコーチング

リーダーがリーダーシップを発揮して会社を変えようとするとき、コーチをつけると役に立つことが多くあります。コーチはリーダーシップの発揮の仕方を教えるわけではありませんが、リーダーが自分らしいリーダーシップの発揮の仕方を確立していくことに効果が期待できます。それは自分の信念・価値観、考え方、行動様式などを自覚するとともに、その幅を広げように挑戦する機会になります。また自分の時間や人生をどう使っていくか、他者にどのように関わっていくかを見つけていく機会にもなります。

いま会社で起きていることを信頼できる人に話すことで頭の中が整理され、勝手な思い込みに気付くことはよくあることです。そして起きていることに対して新しい見方をする。これまでとは違った次元から俯瞰して視てみる。余裕を持って対応できる。目指すものを再確認できる。自分の可能性、信念・価値観、考え方、行動を信じてくれる存在がいる。そして自分の意識、信念・価値観、考え方、行動が変わっていく経験になります。

これらがコーチングを受けると起こりうる自分自身の変化であり、これらはあなたのリーダーシップを高めるのに役立つでしょう。
 
 

まとめ

(1)変化が速く、予測不能で複雑な時代のリーダーシップとは、「適応の仕事に向けてメンバーを動かすこと」です。ここでいう「適応の仕事」とは、変化に適応するためにしなければならないことです。

(2)リーダーシップを発揮すべきは、リーダーだけではありません。誰もがそれぞれの形でリーダーシップを発揮している組織が求められています。

(3)リーダーが、リーダーシップを発揮して行うことは次のとおり。

  • 適応の仕事を見極める。
  • 環境を整える。
  • 変化に対する苦痛や抵抗を調整する。
  • 焦点を維持する。
  • メンバーの手に仕事を戻す。
  • 権力・権限・立場についていない現場のリーダーシップの声を護る。

(4)リーダーが、リーダーシップを発揮していく上で気をつけることは次のとおり。

  • バルコニーに上がる。
  • 自分自身と自分の役割を区別する。
  • 目的意識を持つ。

(5)自分らしいリーダーシップを発揮していく上で、コーチングを受けりことは効果が期待できる。

参考文献

・リーダーシップとは何か!(ロナルド・A・ハイフェッツ著)

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